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自律性を育む ~日本の教育に魅せられて~

日本国際学校の Pham Thi Hieu(ヒュウ)先生

ヒュウ先生はご主人の留学の関係で娘さんと一緒に日本に渡り、旅行会社で働きながら9年間を日本で過ごされました。帰国後はハノイにある日本国際学校(Trường Quốc Tế Nhật Bản)に勤められています。日本での経験と日本式の教育についてお話を聞きました。

 

日本国際学校にて

日本語ゼロで日本へ

-日本語はいつからどこで勉強されましたか?

「夫が東京の大学院に留学していましたので、その夫の元へ1歳の娘と一緒に行きました。日本で約9年間暮らしましたが、初めは日本語ゼロでした。言葉が全く分かりませんから、何もできなくて辛かったですね。友達もいませんし、夫は忙しくて夜遅くまで帰ってきません。新聞やテレビのニュースも全く分かりません。私は家で一人で家事をして、子供の世話をしなければなりませんでした。保育園に子供を入れたかったのですが、母親に仕事がない場合は受け付けてもらえません。日本語ができないので、仕事を探すことができませんし、保育園に子供を預けないと日本語を学びに行くこともできません。ある時、子供が病気になったのですが、医者に相談することもできず、本当に辛いと思いました。日本語の分からない外国人が日本で子供を育てるのはとても大変です。そんな時に、住んでいた地域のボランティアセンターの存在を知りました。日本語のクラスがあり、子供を預けることができましたので、そこに通って日本語の勉強を始めることができました。ボランティアのおじさん、おばさんは熱心に日本語を教えてくれましたし、日本での生活の仕方も教えてくれました。本当に感謝しました。」

-大変な状況の中で日本語の勉強を始められたんですね。

「はい、でも、その後、私の母がベトナムから来て、子供の面倒を見てくれるようになりました。それで、私はファストフードのお店で調理の仕事をしました。その頃には日本語で簡単な会話ができるようになっていましたので、お店の同僚と話もでき、とても面白かったです。そして、日本に住み始めて2年が経った頃、ようやく子供を保育園に入れることができました。私は時間ができたので、日本語学校に通いました。その学校では主に若い人が大学進学を目指して日本語を学んでいましたので、私一人が年寄りでしたよ(笑)。」渡日直後の辛い状況を乗り越えて、少しずつ前進し始めたという感じですね。

 

ツアーオペレーターが見た日本の観光地

-日本語学校にはどのぐらい通われたんですか?

「1年間です。毎日テストがあって、日本語能力試験で言えばN2ぐらいのレベルまで日本語ができるようになっていました。その後は品川にある旅行会社で働きました。主に中国、ベトナム、カンボジア、その他の東南アジアの旅行を手掛ける会社で、私の他に中国人、タイ人、インドネシア人なども働いていました。インバウンド、つまりベトナム人が日本を旅行する場合と、アウトバウンド、日本人がベトナムを旅行する場合の両方の仕事がありました。私は、読売や産経、サイゴンツーリストなどの取引先の旅行会社にランドツアーを提供するツアーオペレーターでした。」 

-ランドツアーを提供するツアーオペレーターというのは?

「ランドツアーというのは、現地での旅行を手配する業務です。ルートを決めて、ホテルや観光施設、バスなどの移動手段の手配をして、お客さんが旅行できるようにします。ツアーオペレーターはお客さんの希望、行き先や日数、金額などを聞いて、お勧めも紹介しながらプランを作ります。それから、旅行中に、例えば、事故や病気、飛行機に乗り遅れたり、パスポートをなくしたりする人もいますから、そんな問題があったら、オフィスで電話を受けて対応します。あとはツアーインスペクターと言って、ツアーのプランを作るために、実際に旅行をして、ホテルやレストラン、観光施設を調べる仕事もしました。お客さんにお勧めするには、行ってみないと分からないことがありますよね。部屋の広さとか、食べ物とか、実際に見たり、食べたりしないと分かりませんから。それでいろいろな所に行きました。日本は自然の美しさに恵まれているだけではなく、ユニークな発想や丁寧なおもてなしで観光をハイレベルなものにしたと思います。それで、世界中の人が行きたくなる有名な目的地をたくさん作り上げたんだと。印象に残っているのは、お花で有名な栃木県のあしかがフラワーパークと茨城県のひたち海浜公園ですね。お花はベトナムでも作れますが、公園の美しさは、ホントに日本の技術ですね。」

 

あしかがフラワーパークで

自律性を育む日本の教育

-お子さんは日本の学校に通われたんですか?

「はい、小学校3年生まで日本の学校でした。日本語は普通にしゃべりますが、ベトナム語があまりできませんでした。日本の料理が好きで、日本人みたいです。私は保護者会の活動や学校の行事によく参加しました。餅つき大会とか、運動会とか、交通安全のための活動とか、様々な活動がありました。そして、そうした活動や娘の様子を見ながら、日本の教育の考え方について知ることになりました。娘はたぶん保育園の頃からの習慣だと思いますが、自分のことは自分でやるんですね。自分で責任を持って行動する。例えば、6歳で小学校に入った時、私が何も言わなくても、自分で朝ご飯を食べて、着替えて、学校に行くんです。目覚まし時計も自分で設定していました。簡単なことですが、ベトナムで育てていたら、できただろうかと思います。大きくなってからも自分なりに考えて行動しているようです。つまり、これは日本の教育で娘の自律性が育成されたんだと、私は気が付きました。それで、ベトナムに帰って来た時に、この日本の教育を伝えたいと思いました。」

 

ベトナムと日本の架け橋

―ベトナムに帰って来て、どうされたんですか?

「まず、日本に留学したい人を応援したいと思ったので、友だちと一緒にハノイで日本語センターを開設しました。小さい学校ですが、知り合いの紹介で東京や横浜、山口の学校と協定を結ぶこともできました。今は他の人に任せています。実は留学したい人は大人で、私が日本で見てきたのは、小さい子供の時から日本の教育を受けるとどうなるかということでしたから。それで、ちょうど知り合いから日本のシステムで幼稚園から教育を行っている日本国際学校を紹介されて、この学校で働きたいと思ったのです。娘もこの学校に入りました。」ハノイにある日本国際学校は、そのホームページによると、日本の教育システムをベトナムに普及させたいという願いから2016年に開設され、幼稚園から高校までの一貫教育を行っています。まさにヒュウ先生の思いと合致する学校です。

-日本国際学校でどんな仕事をされていますか?

「小学校2年生の副担任をしています。日本人が担任で、日本語の授業だけでなく、ベトナム語と英語以外の授業、理科や数学も日本語で教えます。小学生はまだ日本語が全部理解できませんから、ベトナム人の副担任が授業中に通訳したり、ベトナム語で説明したり、補助授業で日本語を教えたりします。また、日本人の教師とベトナム人の保護者の間の架け橋となって、日本の考え方や教育方法を保護者に伝える仕事もあります。この学校は日本と同じで、子供たちの自律性を育てるようにしています。ここに子供を通わせている保護者は日本が好きなのですが、教育方法については理解していない人もいます。例えば、鞄。保護者は子供の鞄が重いと思って持ってあげるんですね。ベトナム人の親はすぐに手伝ってしまう。子供を守りたい、面倒を見たいと思って、甘やかしてしまいます。でも、自分のことは自分でやらせなければなりません。それから、宿題ですね。1、2年生の時、勉強の習慣を作るのは大事ですが、この学校では宿題があまり多くないです。保護者はもっと宿題を出してほしいと言います。日本人の先生は、一番大事なのは毎日学校で楽しく過ごすことだと言います。楽しくて自分でやりたい気持ちになって、『勉強は自分の責任だから自分でやります』と気付かせる教育です。もし、宿題をたくさん出すと子供はやらされているという気持ちになって嫌になってしまいます。こんなふうに保護者に説明をしています。」

 

次の世代を育てる

―これからやりたいことは何かありますか?

小学生向けの日本語センターを作りたいです。日本語だけでなく、日本を紹介したい。例えば、絵本を読む活動。日本国際学校の道徳の時間によく絵本を使いますが、その中で『もったいないばあさん』が人気です。子供は繰り返し出てくる言葉を覚えて「もったいない、もったいない」とよく使ってくれます。ベトナムにも同じ考え方はありますが、楽しい絵本にすることで、より深く子供の印象に残るんですね。あとは、別のことですが、家族全員で日本にいた時に行った所をまわって、知り合いに会いたいと思っています。夫の大学の紹介で毎年、お正月にホストファミリーと過ごしていたのですが、その家族のことを今、思い出しました。鎌倉の近くでしたが、一緒に神社に行って初詣をしました。お母さんがとても親切でした。」

 日本で辛い生活を体験しながらも、日本語を学ぶことで楽しい思い出を築いていったヒュウ先生は、娘の成長の様子から日本の教育制度の良い部分に気付き、それをベトナムで伝えたいと日々仕事に励んでいらっしゃいます。娘さんは今、中学生ですが、ベトナム語に苦戦し、故郷、つまり日本に戻りたいとよく話しているそうです。将来は日本に留学させてあげたいと考えていらっしゃるとのこと。次の世代もきっとベトナムと日本の架け橋となるのでしょう。

 

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本稿はインタビュー内容を編集したものです。インタビューは全て日本語で行いました。また、以下のサイトも参考にしました。写真はいずれもご本人からの提供です。

日本国際学校 https://jis.edu.vn/
発行/国際交流基金ベトナム日本文化交流センター
発行日/2021 年 8 月 20 日
監修/安藤敏毅(同センター所長)
執筆・編集/片桐準二(同センター日本語上級専門家)
編集/山田清美(同センターアジアセンター調整員)
   久保亜樹(同センター日本語指導助手)

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