フエ大学外国語大学日本語日本文化学部のHoang Thi Lan Nhi(ニー)先生
中学生から日本語の学習を始め、その後留学を経てフエ外国語大学の講師となったニー先生。新人時代の苦労と教師としての成長、現在の研究や将来についてお話を聞きました。
日本語との出会い、そして教師への道
― どうして大学の先生になりましたか
私は、中学時代に両親の勧めで日本語学習を始めました。7年間の学習を経て当初は戸惑いもあったものの、フエ外国語大学日本語日本文化学部へ進学しました。大学3年次には山梨学院大学への留学を経験し、そこで日本語と日本文化への理解を深めました。
留学を機に、将来について真剣に考えるようになりました。日本での生活を通して、日本語教師という仕事に魅力を感じたこともあり、帰国後、フエ外国語大学の教師募集に応募し、採用されました。
新人教師時代の苦労と成長
― 大学の先生になって大変だったことは何でしたか。どうやってそれを乗り越えましたか。
教師として働き始めた私を待ち受けていたのは、想像以上に多忙な日々でした。授業準備、会議、研究活動、学生相談、修士課程の履修 1 など、こなすべき仕事は多岐にわたりました。特に苦労したのは、学生とのコミュニケーションです。
学生とのコミュニケーションの壁
授業内容や教案は自分で決められるものの、学生の反応は全く予想できませんでした。「この内容は学生にどう思われるだろうか」「どんな反応が返ってくるだろうか」と常に不安を抱えながらの授業は、精神的に大きな負担となりました。
私は「教師が学生に厳しくしすぎると勉強したくなくなってしまうのも分かるけど、優しくしすぎると学生は宿題をしなかったり、遅刻したりするのではないか」と考えていたため、それが学生との距離を生んでいたのかもしれません。
試行錯誤の日々
学生とのコミュニケーションを改善するため、私は様々な試みを始めました。
例えば、 授業後にアンケートを実施し、学生の感想や意見を収集しました。匿名で記入してもらうことで、学生の本音を引き出そうと試みました。
担任として受け持ったクラスの学生とは、積極的に対話をする機会を設けました。個別の相談にも乗り、学生一人ひとりと向き合うことで、信頼関係を築こうと努力しました。
また、経験豊富な先輩教師に相談し、学生との接し方や授業運営のコツを学びました。
厳しい先生からの脱却
先輩教師からのアドバイスや学生からのフィードバックを通して、私は自身の指導方法を見直しました。そこから「厳しさだけでなく、優しさやユーモアも交えながら、楽しく学べるような授業」を目指すようになりました。
また、学生との距離を縮めるために、授業以外での交流も積極的に行いました。毎週5人の学生を個別に呼んでおしゃべりをしたり、担任としてイベントに一緒に参加したりすることで、信頼関係を深めていきました。
成長
試行錯誤を重ねる中で、学生とのコミュニケーションがうまく取れるようになり、教師としての自信をつけていきました。学生からの信頼も厚くなり、授業中の学生の反応が予想できるようになったり、モチベーションに寄り添って、やる気を無くさせないようにしたりすることも段々できるようになっていったと思います。
新人教師時代の経験は、私にとってかけがえのない財産となりました。この経験を通して、教師としてだけでなく、人としても大きく成長することができました。
博士課程への挑戦、そして未来への展望
― 今は日本の博士課程にいますね。研究テーマとベトナムに戻ってきてからやってみたいことを教えてください。
はい、7年間の教師生活を経て、更なる研鑽を積むために、山口大学大学院博士課程 2 へ進学しました。研究テーマは、修士課程で取り組んだ感謝表現に加え、様々な言語表現の対照研究です。博士課程での研究を通して、研究の面白さに目覚めてきたところです。
博士課程修了後、フエ大学外国語大学に戻り、研究成果を伝えたり、様々な研究手法を共有するためのセミナーを開催したりしたいと考えています。また、日本の研究者との共同研究も視野に入れています。
「研究を通して得られた知識や経験を、フエの日本語教育に還元したい!」それが今後の私の挑戦です。
― ニー先生の挑戦は、まだ始まったばかりです。しかし、その熱意と行動力は、フエの日本語教育に新たな風を吹き込むことでしょう。
注1 修士課程:フエ大学外国語大学大学院対照言語学専攻
注2 博士課程:山口大学大学院東アジア研究科教育開発コース言語学専攻
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インタビューは日本語で行いました。本稿はインタビューの際の日本語を編集したものです。
写真はいずれもご本人からの提供です。
発行/国際交流基金ベトナム日本文化交流センター
発行日/2025年6月20日
執筆/三本智哉(同センター日本語専門家)
編集/藤井舞(同センター日本語専門家)
藤村春菜(同センター日本語指導助手)
宮川裕士朗 (同センター日本語指導助手)
土谷リサ(同センター日本語事業担当スタッフ)
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