logo
vi jp

変わりゆく日本語教育界でチャンスをつかむ

ダナン大学外国語大学日本語・日本文化学部学部長

Nguyen Thi Nhu Y(ニュー・イー)先生にインタビュー

 

ニュー・イー先生はベトナムの大学を卒業後、日本の大学院で博士号を取得し、現在は日本語・日本文化学部の学部長として活躍されています。留学や通訳の経験がきっかけとなった新しい授業デザイン、コロナ禍の教師育成の試みなど、様々な取り組みについてお話を伺いました。

 

 

日本語との出会い

―日本語学習を始めた頃のことを教えてください。

「大学で日本語の勉強を始めて「外国語ってこんなに難しいの!?」ということを実感しました。当時は読解や聴解の補助教材もなく、入学して一年間は『みんなの日本語』の本冊だけで勉強しました。授業の速度も速くて、週に4日、一日5コマ勉強しました。でも、その一年間を乗り越えたとき、日本語が面白いと実感できました。3年生になって初めて日本語能力試験のことを知って、みんなで先生に貸していただいた1999年の問題集を1冊勉強して、試験を受けました。合格できて、本当に自慢したい気持ちでした。」

 

―日本へ留学されましたか?

「ベトナムの大学を卒業して4年間、大学の教師の助手をした後、5年半留学しました。日本の文部科学省の奨学金で大阪大学日本語日本文化研究科の博士前期課程と博士後期課程を修了しました。大学の教師になるためには修士号を取らなければならないので、留学しなければならないという背景がありましたが、自分自身も大学で勉強した知識ではまだ足りていないし、日本語教育を専攻としてもうちょっと深く研究しなければならないということも認識していたので、頑張りました。」

 

―日本へ行ってみてどうでしたか?

「良かったです。やはり日本について自分の目で見たり、自分の耳で聞いたり、自分で実感したりできたことはすごくいい経験でした。先程も言いましたが、教科書が少ない時代に勉強したので、私が知っていた知識は全部教科書に載っていることだけでした。日本に来て、勉強した通りだと感じることもありましたが、教科書に書いてあることとは違っていたということがたくさんありました。それまでに勉強したことは教科書の外国人向けの日本語だけだったんですね。留学して初めの頃は大学で勉強するだけだったんですが、大学で身につけた日本語だけで本当に日本語教師になれるかどうか、自信がありませんでした。そこで、何かアルバイトの仕事も始めようと思ったんですね。幸いなことに機械関係の会社で通訳の仕事をさせていただけました。それから日本にいる5年間で、いろいろなところで経験させていただきました。ものづくりで使っている日本語と研究で使っている日本語は100%違うと言ってもいいんですよ。本当にいい経験でした。」

大学院の休暇中にも長期通訳として、滋賀県のパナソニックやキリンビールの工場など、いくつもの工場で通訳の仕事をしていたそうです。せっかくの休みなのにと思ってしまいますが、仕事がないとやりがいを失ってしまうとのことでした。

 

ものづくりの日本語を授業に取り入れる

―通訳の仕事をして感じたことは?

「ベトナムの大学では、今まで日本語教育と言っても、ほとんど生活のための日本語だけだったんですね。最近、ベトナム人の日本語学習者が多くなってきましたが、日本語を勉強する目的も多様化しているじゃないですか。その多様な目的に合わせて日本語教育を行わなければならないですね。また、生活のための日本語は日本語センターでも勉強できますし、わざわざ大学に入らなくてもいいでしょう? 大学の日本語教育の役割と言ったら、やはり専門的な日本語、つまり、日本語プラス何かを教えなければならないと思っています。自分が通訳として日本の工場で勉強した日本語を、ベトナムの大学の教育現場に生かしたいと思います。IT日本語、ものづくりの日本語(建築、建設、電気、機械など)、あと介護の日本語なども必要になってきましたので、専門的な日本語の授業をカリキュラムの中に入れていきたいと思っています。専門的な日本語の授業はもともとあったんですが、今はビジネス日本語の研究で修士号を取得した教師もいるので、授業の内容が深くなっていくと思います。」

 

キリンビール滋賀工場の麦畑にて

 

プロジェクトで学ぶ授業をデザイン

―大学院はどうでしたか?

「大学院では、研究テーマの内容というより、その研究方法を身につけました。学んだ研究方法を生かして、今はPBL(Project Based Learning)、プロジェクトを通して日本語教育を行うという研究テーマに取り組んでいます。翻訳と通訳の授業を担当しているのですが、今まではほとんど教師の一方的な指示だけで通訳と翻訳の授業を行っていました。今は実際に学生が通訳の役割を体験できるプロジェクトを行っています。今年2月には日本人の講演者を招聘してある問題について講義をしていただきました。その講義を20人の学生が順番に通訳しました。通訳の体験の後、自分で評価して、これから改善するためには何が必要かということについてレポートを書いてもらいました。学生の感想を見ると、「今まで通訳・翻訳の授業で身につけた知識・スキルなどを実際の通訳に使って、自分がどこまでできるか実感できた」「プロジェクトを通じて勉強する意欲が高くなった」「これからいろいろなプロジェクトに参加したい」ということが書かれていました。また、通訳は一人ではなく、グループで行ったので、グループでの分担や計画を立てるためのスキルなどもアップしたということも聞きました。すごく嬉しいことです。」

 

―留学の前後で授業の考え方が変わりましたか?

「だいぶ変わりました。留学する前は自分が勉強した知識だけで教えていました。自分の知識を学生に全部見せて、憧れられる教師になりたかったんです。今は自分が持っていることを学生に見せるのではなく、学生が持っていることを見たいです。つまり、留学する前は教師が一方的に教える教師中心の授業でしたが、今の私が担当している授業は学生中心で、教師はただのメンターです。学生に自分で知識を身につけてもらいたいです。」

 

 

コロナ禍でも日本語が話せる機会を

―オンラインで「おしゃべり会」を実施していらっしゃいますね。

「はい、後輩教師の育成の一環としてやっています。もともとダナン大学外国語大学には日本人教師が3人ぐらいいて、交流したり、話したりして、若手の教師が自分の能力を高められる環境でした。でも、2020年にコロナでベトナムがロックダウンになって、日本人教師は日本に戻らなければならなくなり、一人もいなくなりました。そのような状況で若手の教師たちのメンタルケアとして日本語が簡単に話せる場を作りたいと思って、おしゃべり会のアイデアが浮かんだんです。日本人とベトナム人、ほかにラオス人や台湾人など、日本語を話す日本語教師が集まって楽しく話せるところを作りたいと思いました。毎月一回、オンラインビデオ通話であるテーマについて自由に自分の感想や考えを話します。あと、もうちょっとアカデミックな要素も入っていて、研究の一部を発表したり、日本語教育現場の問題の解決方法について話し合ったりもしています。」

 

―やってみてどうですか?

「一般的なテーマについてしゃべるだけではなく、アカデミックなことを話したり、現場で生じた問題の解決方法について一緒に考えて、いいアイデアが出てきたりするので、本当に良かったです。若手の教師たちは先輩たちを見て、自分も頑張ってこういう先生になりたいと感じるなど、いい刺激になったんじゃないかなと思います。」

 

―将来の夢はありますか?

「本当に大きな夢なんですが、ベトナムで若手研究者を養成していきたいと思っています。自分も若手なんですけどね。若手研究者が自信を持って自分の論文を発表したり、自分の考えを述べたりできるようなコミュニティを作りたいと思っています。」

 

―最後に一言、お願いします。

「みなさんに「何事にも恐れず、機会が来たら、ぜひそれを生かしてやってみてください」と伝えたいですね。運は自分の周りにいつもあります。ただその運をつかむ力を持っているかどうかが問題なんです。」

今までの経験を生かし、活躍し続けるニュー・イー先生。今回はすべて紹介することができませんでしたが、ほかにも様々な取り組みを行っていらっしゃいます。最後に伺った言葉の通り、周りにあるチャンスや運をつかんできた先生だと感じました。

 

**********************

インタビューは日本語で行いました。本稿はインタビューの際のご本人の日本語を編集したものです。写真はいずれもご本人からの提供です。

発行/国際交流基金ベトナム日本文化交流センター
発行日/2022年6月20日
執筆・編集/久保亜樹(同センター日本語指導助手)
編集/藤長かおる(同センター日本語上級専門家)
   山村陽子(同センター所長補佐)
   土谷リサ(同センター日本語事業担当スタッフ)

Đăng ký email cập nhật

Trung tâm Giao lưu Văn hóa Nhật Bản tại Việt Nam

Văn phòng

Giờ mở cửa: 08:30 - 12:00/13:30-17:30 từ Thứ Hai đến Thứ Sáu
Đóng cửa: Các ngày thứ Bảy, Chủ Nhật và các ngày lễ

Thư Viện

Giờ mở cửa: 09:30 - 12:00/13:00-18:00 từ Thứ Ba đến Thứ Bảy
Đóng cửa: Các ngày Chủ Nhật, thứ Hai và các ngày lễ

Trung tâm Giao Lưu Văn Hóa Nhật Bản tại Việt Nam 2009 - 2024, all rights reserved.