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教育の力で人は変わる

BK HoldingsHưa Thùy Trang(チャン)先生

 

今回あハノイ工科大学が設立したBK Holdingsで研究者と企業との連携をコーディネートする仕事をされている工学博士のHưa Thùy Trang(チャン)先生にインタビューしましたので、そのお話をご紹介します。

 

 

貿易を教える

-チャン先生は今どんな仕事をされていますか?

「今、3 つの仕事をさせていただいています。1 つ目はタンロン大学の日本語専攻で貿易実務について教えています。2 つ目はハノイ工科大学と長岡技術科学大学が共同実施している産学官連携プロジェクトのGigakuテクノパークのコーディネーターです。3 つ目は、今年の 4 月からですが、BK Holdings での仕事を始めました。」

では、まずタンロン大学の仕事からお聞きしますが、貿易実務を教えていらっしゃるんですか?

「はい、貿易実務はビジネス日本語の卒業テーマになっています。日本では貿易実務検定というのがありまして、A 級、B 級、C 級とあるのですが、その C 級レベルで、貿易実務の基礎を教えています。検定試験の問題例を使いながら、授業をしたり、試験を作ったりもしています。例えば、貿易の仕事には、お金の流れ、貨物の流れ、書類の流れの 3 つの流れがあるというような授業です。ただ、基礎知識だけでは会社に入ってから役に立ちません。学生には JETRO(日本貿易振興機構)などのサイトから実際の貿易の状況を調べさせ、基本の流れと実際の流れの違いや、新しく導入されている IoT (モノのインターネット)や AI(人工知能)がどのように使われているかなど、変化していく情勢にも注意させるようにしています。タンロン大学にはインターンシップ・プログラムがあり、企業で働く経験ができますが、そんな学生たちが、卒業後に日本の会社に入れるように指導しています。」

先生は経済や経営のご専門だったのですか?

「いいえ、私は貿易会社で働いていたことがありましたので、その時に学びました。ベトナムにある日本の会社で織物、セラミック製品などを扱っていました。この時は様々な企業を訪問する機会もありましたし、税関の書類も日本語と英語の両方が必要でしたので、書類作成の勉強もしました。」

 

京都工芸繊維大学への留学

そうしますと、先生のご専門は?

「私はハノイ工科大学繊維学部で織物技術を専攻しました。これが私の専門で修士課程の途中まで 5 年間学びました。若い時から様々なことに興味があったので、同時期にハノイ国家大学外国語大学の夜間コースで英語も学んでいました。その後、国際交流基金の Asian Youth Fellowship (AYF)プログラムに合格し、マレーシアで約 1 年半、いろいろな国の人と一緒に日本語と日本文化について学びました。」

日本語との出会いは、そこだったのですね。

「はい、このプログラムのおかげで、その後、日本の京都工芸繊維大学の大学院に留学することができました。私はファッションが好きなので、服を作るようなアパレル会社を作りたいという夢を持っていました。それで織物について学ぶために留学をしたのです。その時までにハノイ工科大学で修士課程を修了していましたので、研究生を経て博士後期課程へ入りました。でも、研究生活は本当にとても大変でしたね。マレーシアでの日本語の勉強のおかげで日常生活では困りませんでしたが、研究で使う言葉は全然違います。研究室の友達に分からないことを何でも聞いていました。様々な設備を使って材料の構造変更の実験をしましたが、それも皆さんに助けてもらいながらでした。毎回、先生に報告するのが大変でしたが、論文を書いて修了しなければ国に帰れないですから、がんばりましたね。その時の研究室の友達は 5 人グループで、今でも同窓会をしています。私以外はみな日本人で、研究室では朝から晩まで実験をして、いつも一緒でしたから、家族みたいでした。」

 

伝統文化が見られるロマンチックな京都

日本についてはどんな印象ですか。

「私が京都へ行ったのは 4 月でした。大変ロマンチックなところだと思いました。日本の伝統的な織物を見ることができ、文化的な背景も合わせて体験できました。ホストファミリーにお世話になり、留学生のための活動にも参加でき、楽しみながらたくさん勉強ができました。実は京都にいる間に、京都起業家学校というスタートアップについて週末学べるコースにも通っていました。会社を立ち上げるという夢がありましたので、8 か月勉強して修了しましたよ。」「スタートアップ」とは「革新的な事業に取り組む企業」のことで、今も京都工芸繊維大学では短期間でビジネスモデルを構築するための国際的なワークショップが、起業家育成プログラム「Kyoto Startup Summer School (KS3)」として実施されているようです。

 

長岡技術科学大学との連携プロジェクト

-ベトナムに戻られてから、どうされましたか?

「ハノイ工科大学に戻って繊維学部の学部長をしたり、織物の専門学校で副学長を務めたりしました。そして、ハノイ工科大学と長岡技術科学大学とのツイニング・プログラムの仕事も始めました。このプログラムの学生は、ベトナムの大学で 2 年半、日本語と専門の基礎科目を学び、その後、日本の大学で 2 年間の専門教育を受けます。私は初めは『科学技術の日本語』を担当していましたが、今は、先ほど話しましたように Gigaku テクノパークのコーディネーターの仕事をしています。」長岡技術科学大学のサイトによると、ツイニング・プログラムは「日本語のできる指導的技術者の育成」を目標としたもので、日本と現地の 2 つの大学の学位が取得できます。2003 年から開始されていて、ハノイ工科大学が一番古く、その後、ベトナムでは 2006 年からホーチミン市工科大学とダナン工科大学でも始められています。そして、Gigaku テクノパークは、長岡技術科学(技学)大学が海外の戦略拠点大学と連携して、産学官融合キャンパスを構築し、国際共同研究や学生・高校生・中小企業技術者・教職員の相互派遣交流を促進するプロジェクトです。チャン先生はそのコーディネーターの功績により 2018 年に長岡技術科学大学から教育功労者として表彰されています。

 

教育と技術とビジネスの連携

-そして、今は BK Holdings の仕事もされているということですね。

「はい。2015 年から先ほどお話をしたタンロン大学の仕事をし、今年の 4 月からは BK Holdings の仕事も始めました。ベトナムも今はイノベーションの時代です。BK Holdings では、教育と技術とビジネスの 3 つの分野をうまく連携させて、新しい商品を開発して販売する、そのコーディネートをする仕事をしています。つまり、ハノイ工科大学の教師や学生の研究を企業と連携させるのですが、企業側もどこにどのような技術があるのか分からないので、うまくマッチングさせる必要があるのです。」BK Holdings はそのサイトによると、2008 年に教育訓練省から承認されて設立された会社です。設立目的は、政府、組織や個人、国内外の企業が大学による科学技術産品の研究プロセスに参画し、その商品化を支援することで、研究者がビジネスを構築する主体となることだとされています。

 

教育の力で人は変わる

チャン先生は技術者になることもできたし、貿易の知識があって起業についても学ばれたので、会社経営もできたのですが、今は教育に重点を置かれているようです。どうしてですか?

「日本の教育の影響を受けたのです。私の恩師は京都工芸繊維大学の伊藤孝先生ですが、立派な先生で、知識や技術だけではなく、考え方やマナーを背景となる文化も含めて指導してくださいました。私はこのような教え方をベトナムに伝えたいです。正直、私は日本に行くのが怖かったんです。日本で研究できるのか不安でした。でも、先生は日本の心を教えてくださって、それにとても驚き感動しました。私がこれまで教えてきた人には 3 つのタイプがあります。1 つ目は優秀な学生。1 つのことを言えば、教師がいなくても自分で勉強できるが、コミュニケーションが弱い。ただし、言語も必要だと伝えると、自分でどんどん日本語や英語を勉強します。2 つ目は、勉強の目的がはっきりしていない学生。多くの場合、勉強のやり方もよく分からないので、1 つ 1 つのステップを細かくして、手順を示しながら教えます。3 つ目は、単純労働の仕事をしながら日本語を学ぶ人。ソフトスキル、特にモチベーションについて気付かせてあげると、それだけで能力を上げる人がいます。つまり、どんな人でも教育の力で変えることができます。そして、私は教えた人が能力をアップして

いくのを見るのがとてもうれしいのです。」

 

タンロン大学の学生と

 

今後は連携アプリの開発

これからやりたいことはありますか?

「デジタル時代ですので、EdTech(Education × Technology)や FabLab(Fabrication Laboratory)などに興味があります。ベトナムでも小学校から Ed Tech が導入されるといいですよね。FabLab では学生たちが自由に実験をして、そこからスタートアップ企業が生まれます。そこに関わりたいです。あとは今の仕事に関係していますが、連携アプリの開発です。どこにどんな教育や研究、そして企業があるかデータベースを作り、それを使って、教育、言語、技術、人材、ビジネスをマッチングするアプリです。日本の企業はかなりのお金をかけて、ベトナムの情報を集めていますが、このアプリがあれば役に立つと思うのです。」さすがに新しい時代を見据えた興味をお持ちです。筆者は FabLab(ファブラボ)という言葉を初めて聞き、ネットで調べました。チャン先生のコーディネートによって、私たちの社会がどんどん便利で豊かなものになっているんだと感じながら日々生活したいと思いました。

 

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本稿はインタビュー内容を編集したものです。インタビューはすべて日本語で行いました。また、以下のサイトも参考にしました。写真はいずれもチャン先生からの提供です。

Kyoto Startup Summer School (KS3)     http://www.kyotostartupschool.org/
長岡技術科学大学ツイニング・プログラム https://www.nagaokaut.ac.jp/kokusai/kokusai_tenkai/twinning_ program.html
Gigaku テクノパーク https://www.nagaokaut.ac.jp/project/sgweb/techno.html
BK Holding      http://www.bkholdings.com.vn/en/

発行/国際交流基金ベトナム日本文化交流センター
発行日/2021 年 6 月 20 日
監修/安藤敏毅(同センター所長)
執筆・編集/片桐準二(同センター日本語上級専門家)
編集/山田清美(同センターアジアセンター調整員)

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