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留学の夢あきらめ、両親に家プレゼント ~日本語で営む人生~

3Q外国語センターの Pham Thi Phuong 先生にインタビュー

ベトナム日本文化交流センターで2019年実施の第3回新規日本語教師養成講座と2020年実施の教育実習コース(2020年12月19日~2021年1月24日実施)に参加されたフオン先生にインタビューをしましたので、そのお話を紹介します。

 

職場のクリスマスパーティーの時(写真提供:フオン先生)

日本で学んだ日本語

‐日本語はいつからどこで勉強を始められたんですか?

「私は高校卒業後に技能実習生送り出し機関に入り、そこで3か月半日本語を勉強し、実習生として日本の山口県に行って3年間働きました。職種はプラスチック成型で、給水給湯システムのパイプの組み立て作業をしていました。日本へ着いた時は、生の日本語を聞いて全く分からなくて、初めの1年は大変でした。工場の人たちはジェスチャーを使ったり、絵を描いたりして説明してくれました。私は少しずつ同僚の日本人から日本語を学びましたが、日本人と話したいという気持ちが強かったので、毎日、仕事が終わって食事をした後、教科書を読んだり、テレビを見たりして日本語を勉強しました。休みの日もほとんど勉強ばかりしていました。特にテレビは本当にずーっと見ていました。分からなくても、ニュースやドラマをとにかく見ていました。」分からなくても勉強になるんですか、と聞くと「字幕が出るので、それを見ながら聴解練習し、漢字もそれで覚えることができました。」とのこと。面白い番組があったのですか、と聞くと「いや、あまり分からなかったんで、面白いかどうかも分からないんですけど、それでもずっと見ていましたね(笑)。」

 

日本人の友達に恵まれて

‐では、日本での生活は大変だったんですね?
「2年目以降は日本語も少しずつ分かってきてそんなに大変ではありませんでした。会社の人や近所の人はとても親切で果物など持って来てくださることもありました。会社では社員旅行があって、みんなで一緒に海へ泳ぎに行ったり、山へ紅葉を見に行ったりしました。海の水がきれいなことにも、緑に黄色と赤が鮮やかな紅葉にもとてもびっくりしました。日本の印象はいいことばかりですが、一番良かったのは何といっても日本人と友達になれたことです。特に一緒に工場で働いていた女性、3歳年下だったんですけど、ベトナム人のことをよく理解してくれたんです。仕事を教えてくれましたし、困っている時はすぐに気が付いて、声をかけてくれました。とても話しやすい人で、時々一緒に食事に行ったりしました。」

 

日々研鑽する日本語教師の歩み

―ベトナムへ戻ってからどうされたんですか?

「送り出し機関の語学センターで1年半ぐらい日本語を教えました。初めて教えた時はどう教えたらいいか本当に分かりませんでした。でも、学生は日本のことに興味があり、私は日本から帰った来たばかりなので日本のことをいろいろ話してあげられてよかったです。その後、私は結婚して、それから今の3Q外国語センターに勤め始めました。今まで9年間働き、日本語を教えながら総務の仕事もしています。」

3Q外国語センターは実習生送り出し機関TAM QUY株式会社の語学センターでTAM QUYは3Qを表し、3つのQはQuest、Quick、Qualityでお客様の要望に迅速に応え、質の良い人材を提供するといった意味だとのことです。

―では、教授法など教師として本格的な勉強は3Qセンターで働きながら学ばれたのですか?

「そうです。このセンターには10人ぐらい教師がいて、日本人教師も2人います。時々勉強会があって日本人教師から教え方を学んだり、他の教師の授業を見学して学んだりもできます。学生にどうやって勉強への興味を持たせるか、一番いい方法を教師みんなで考えて授業をしています。ここで日本語を学んでいる人は仕事をしている人ですから、やる気とか、集中力があまり高くないのです。ですから、面白い授業、わかりやすい授業をしないといけません。今日はこう教えて、いいと思ったけど、翌日はまた別のアイディアを試してというふうに教え方を日々工夫していきます。」

―9年間も経験があって、自分の機関でも勉強会をしながら教え方を工夫されているのに、どうしてまた教師育成講座に参加されたのですか?

「2つ理由があって、1つは新しい教科書を、もう1つはもっと違う教え方を知りたいからでした。会社から指示があったわけではありません。この講座は毎週土日にありましたから、仕事をしながらだと休みがなくて大変でしたが、様々な教え方を学ぶことができました。」

―教科書と教え方について収穫がありましたか?

「ベトナムの学生は文法と漢字だけ勉強し聴解が苦手です。国際交流基金の『まるごと 日本のことばと文化』と『いろどり 生活日本語』の2つの教科書は会話場面が分かりやすく面白いです。聴解練習も多く、それによって文型も語彙も学んでいきますから、自然に聴解練習が好きになります。それにこの2つの教科書で教える時は、今までの私の教え方とは違い、学生に考えさせたり、文法ルールを発見させたりします。学生は自分で考えながら学ぶことで自信を持って会話することができるようになります。素晴らしい方法です。私もこの教え方に少しずつ変えていこうと思っています。今回参加した実習コースでもこの学習方法に慣れるのに時間がかかる学生がいましたから、難しいところもありますが。」

 

留学の夢あきらめ、両親に家プレゼント

-日本にいる時もずっと日本語を勉強されていましたが、教師になってからも教師育成講座に参加されるなど、本当に勉強好きなんですね?

「そうではないです。これは仕事のためです。去年からコロナの影響で日本へ行く人が少なくなりました。今、送り出し機関はどこもすごく困っています。将来、仕事がどうなるか分からないです。何をするにしても日本語力が一番大切です。私は高校卒業後に技能実習で日本へ行き、ベトナムに帰ってからもすぐに仕事をしたので、大学へ行くチャンスがありませんでした。大学に行っていればもっといろいろなことを学べたはずだと思っています。実は実習で貯めたお金で、日本の大学に留学しようと思っていましたが、私が日本にいた時期は仕事があまり忙しくなく、思うようにお金が貯まりませんでした。ベトナムに帰ってきた時に両親のために家を建てることはできましたが、それ以上のお金はなかったのです。でも、小さな家ですが、私を育ててくれた両親にプレゼントできてよかったと思っています。」

―ご両親は喜ばれたでしょうね。

「私の実家は海の近くにあり、台風が来たらとても危なかったのです。以前は台風が来たら、高台や丈夫な家に逃げたり、避難所へ行ったりしなければなりませんでした。それで、私は丈夫な家がずっと欲しかったのです。親ははじめ家を建てることに反対でした。私が稼いだお金は私のために使って欲しいと言っていました。私はすぐに仕事を見つけるので心配しないでと言って、一週間後には語学センターの日本語教師の仕事を見つけていました。それで親も安心して家を建てることに納得してくれました。その後は台風が来てもあまり心配しません。両親もとても喜んでくれました。」

 

ご両親(フオン先生が建てた家で)(写真提供:フオン先生)

子供の成長、母親の夢

―日本語の勉強で楽しいことは?

「自分が伝えたいことが伝えられることですね。日本人とのやりとりがとても楽しいです。今回、実習コースに参加して、若い先生方でもみんな日本語がすごく上手でびっくりしました。もっと日本語を勉強しないといけないなと思いました。」

―将来の計画はありますか?

「学校を建てるのは難しいですが、自分の家で教室を開いて、小学生に教えたいです。日本の文化や挨拶、お礼、謝ること。大人になるとなかなか変えにくいので、子供の教育が大切です。今、私は子供が2人います。8歳と6歳で、もうすぐ3人目が生まれます。8歳の子は4歳の時にひらがなとカタカナを全部覚えてしまいました。おもちゃとしてひらがなカードで遊ばせていただけですよ。そして、ドラえもんを見て、自然に日本語を覚えているようです。先日は教育実習の準備で『いろどり』の練習用音声を聞いていたら、子供がすぐその言葉をまねて発音していました。子供は耳がいいんです。将来、日本に留学させたいですね。お金がなくても、奨学金をもらって留学できるようにしてあげたい、ま、これはお母さんの夢ですね。」

 実習生として日本に渡り、帰国後は貯めたお金で両親に家を贈り、日本で学んだ日本語で日本語教師として働きながら、結婚し、子供を育て、自身の日本留学の夢をその子供に託すべく人生の営みを続けるお母さん先生、これからも続く日本語での活躍を見守りたいと思います。

最後にフオン先生から実習生へのメッセージをもらいましたので以下に記します。

「これから日本へ行く実習生へ。皆さんはお金のために日本へ行きますか。でも、いくら貯金しても帰国後にこんなことをしたい、あんなことをしたいとお金をどんどん使ってなくなってしまいます。日本へ行く前にもう一度行く目的を考えましょう。お金のためですか。自分の将来のためですか。そして、3年後、5年後に帰国したらどこで何をするのか考えておきましょう。日本へ行ったら、日本語や日本人のマナーを学びましょう。帰国後、日本での経験を活かせるようないい仕事をするチャンスが増えますよ。」

 

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本稿はインタビュー内容を編集したものです。インタビューはすべて日本語で行いました。以下のサイトも参考にしています。なお、この原稿を書き終えた時にフオン先生から第三子誕生のお知らせをいただきました。おめでとうございます!

3Q株式会社 http://3q-inc.asia/

発行/国際交流基金ベトナム日本文化交流センター
発行日/2021年4月20日
監修/安藤敏毅(同センター所長)
執筆・編集/片桐準二(同センター日本語上級専門家)
編集/長田あさみ(同センターアジアセンター前調整員)
   山田清美(同センターアジアセンター調整員)

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