FPT大学日本語学部の新鋭、Nguyen Hoang Lam 先生にインタビュー
今回はベトナム日本文化交流センターで実施された第4回新規日本語教師養成講座(2020年8月22日~2021年1月24日実施)にFPT大学からの推薦で参加されたLÂM(ラム)先生にインタビューをしましたので、そのお話を紹介します。
FPT大学キャンパス内にて (写真提供: ラム先生)
大学生時代に次々とチャンスに恵まれて
-日本語を学び始めたきっかけは?
「僕はFPT大学に入学した時に日本語と出会いました。元々英語が得意で、それを活かしてジャーナリズムを勉強したいと思っていましたが、両親の勧めで路線変更してFPT大学に入りました。僕は言葉が好きなので、英語以外の言語を学びたいと思っていたところ、ちょうどその年にFPT大学に日本語学部が設立されたので、本当にこれは縁なんですけど、日本語を専攻することにしたんです。大学時代には毎年のように日本へ行く機会に恵まれ、今から考えるとFPT大学に入って本当によかったと思います。」
– 日本語は日本で上手になられたんですね?
「はい。まず、僕は入学して半年後に交換留学プログラムで立正大学に留学しました。11か月日本で学びましたが、僕の日本語が上達したのは、この時に同じ寮に住んでいた二人の日本人の学生と友達になれたからです。一人はサッカー部の人で、もう一人は音楽部の人でした。音楽部の人は隣の部屋の人で、僕はラップが好きなんですが、その人もたまたまラップ好きだったので仲良くなり、今でも付き合いが続いています。その後、ベトナムに戻り、2年生の時には文教大学との文化交流プログラムで1週間ほど日本に行き、さらに3年生の時に、これはその後の僕の進路に大きな影響を与えたのですが、AIESECのインターンシップ・プログラムで千葉県にある高校で4カ月ほど英語教師のアシスタントをしました。この時、僕は自分が教師に向いているなと実感しました。」
ありのままの自分でいられる職業
―教師に向いているというのは?
「FPT大学で僕に日本語を教えてくれた先生はものすごく熱心で、しかも日本語だけではなくて日本語で何をするかという、チャンスを与えてくれたんです。例えば日本語を使って通訳しなさい、いきなりですけども、大学内での簡単な仕事をさせてくれました。その時に僕はなんとなく、あ、こういう先生になりたいと思って、教師に向いているんじゃないかと感じました。それで3年生の時にインターンシップに行ったんです。日本の高校生に言葉の勉強法だったり、英語の面白さだったりを話したんですが、言葉が好きだという情熱が伝わったのか、生徒がものすごく興味を持ってくれたんです。その時、授業をやってよかった、人に受け止められるというのはこういうことなんだ、これだったら自分はありのままでいられると実感しました。それで僕は教育分野で働くことに決めました。」
社会経験としてのFPT国際交流センター
―大学卒業後はすぐに教師になったんですか?
「いいえ。教師になる前に社会経験が必要だと思ったので、FPT大学の中にあるFPT国際交流センターで働くことにしました。そこは外国の大学と提携を結んだり、その提携校との交流プログラムを企画・実施したりするところで、僕は日本の大学を担当していました。その時に2回の日本出張があり、主に関東や関西の大学を回ってきました。そして、2年近く働きましたが、そろそろ教師になろうと思い、FPT大学日本語学部の教師に応募して昨年2020年9月から教師になりました。」
FPT大学はベトナム最大のICT企業であるFPT (Corporation for Financing and Promoting Technology) によって2006年に設立された私立大学で、ハノイ、ホーチミン、ダナン、カントーの4か所にキャンパスがあります。FPTは主にソフトウェアのアウトソーシング事業で発展したグローバル企業ということから、FPT大学・大学院には情報技術(IT)、ソフトウェア・エンジニアリング、経営学、英語、日本語などのプログラムがあります。企業との連携が考えられており、在学中にFPTのグループ企業でOn-the-Job Training(OJT)が経験でき、卒業後の就職率が高い大学です。
日本好きになってもらうことが教師の成功
―大学ではどんな授業を担当されていますか?
「今は初級日本語を日本語専攻とソフトウェア・エンジニアリング専攻の学生に教えています。どちらも日本語が必須ですが、学生のモチベーションは全く違います。エンジニアの学生は全体にモチベーションが低いです。でも、初級クラスで教師ができることは、学生に日本語や日本を好きになってもらうことだと思っていて、そのために何をすればいいのかをいつも考えています。最初はやる気がなくてもそのうち日本のことが好きになって、日本語を勉強したいという気持ちになってくれれば、それが教師の成功だと思います。そういう意味でエンジニアの学生には国際交流基金の『いろどり 生活の日本語』という教科書を使いたいと思っています。この教科書は会話の力を伸ばすことが中心になっていて、しかも学習者は自分で何ができるようになったかをちゃんと把握できる仕組みを備えています。自分が日本語で何ができるかが分かることでもっと興味が湧いてくるんですね。今のエンジニアの学生にはそれが足りないんです。」
ラム先生は新規日本語教師養成講座に参加されて『いろどり 生活の日本語』の教科書について学び、そのよい点を理解してくださったようです。ベトナムでは日本語教授法を学べる機関が少ないことから、ベトナム日本文化交流センターはハノイ国家大学外国語大学とハノイ大学と共催・協力して新規日本語教師養成講座という週末の土日に実施する200時間のコースを開講しています。2020年度には4回目の講座が実施され、ラム先生はこの講座を受講されたというご縁で今回インタビューをさせていただきました。
教授法を学び、教師仲間ができた
―新規日本語教師養成講座に参加された理由は?
「大学から連絡をもらいました。実は日本語学部の時は、日本語、経営、IT、通訳・翻訳しか習っていません。教授法は学んだことがなかったので、参加することにしました。そして、この講座に参加できたことで、2つのいいことがありました。一つは、教授法に関する知識、例えば、can-do、音声、ICTの活用など多くのことを始めて勉強しました。一番印象に残ったのは音声の授業です。僕は発音が好き、日本語の発音がとても好きなんですが、発音する時の口の形や舌の置き方、音の出し方などを教えてもらいました。これはまさに僕の知りたかった内容でした。もう一つは、仲間ができたことです。日本語教育で頑張っている他の機関の先生方と知り合い、共に学び、ここでネットワークを作ることができました。」
FPT大学キャンパス内にて (写真提供: ラム先生)
言葉へのパッションが教師の役割
―今後の計画や将来の夢はありますか?
「日本語と言語学に関してもっと学び、それを使って学生に教えたいです。教師が言葉を好きでないと学生に伝わらないんです。言葉へのパッションが教師の役割だと思っています。それを頑張っていきたいです。そして、僕が日本語を習った先生から学んだことですが、言葉を使って何ができるかも大切です。僕が教えている学生がそろそろ中級になるので、これからProject Based Learningを始めたいと思っています。一つのクラスでも学生の日本語レベルは様々で、日本語があまりできなくてもその人にはその人の才能があって、それがまだ見つからないから日本語の勉強に集中していないんだと思います。それで、一緒にプロジェクトをすることで学生が自分の才能を発揮できるようにしたいのです。日本語というツールを使って才能を発揮させる、そんなプロジェクトとして、学生と一緒に大学内に日本文化センターを作りたいと思っています。学生が日本人と連絡をとって、文化交流プログラムを実施するみたいなことを考えています。」結構大きなプログラムを考えていらっしゃるようで、それはいつ頃実現しますかと聞くと「今担当している学生が卒業するまでにしたいですね」と国際交流センターでの仕事の経験があるとはいえ、教え始めてまだ5カ月の先生の夢のスピードの速さに驚きました。
木漏れ日のエピソード
―ラム先生の言葉への情熱の原動力は?
「立正大学に留学しいていた時に日本人の友達と散歩をしたことがありました。その時に木々の葉っぱに太陽の光が差し、周りがとてもきれいに見えました。僕がきれいだなあと思ったら、その友達が『木漏れ日』と言ったんです。あー、これはベトナム語にないんじゃないか、そう思ってすごく記憶に残っています。言葉を学ぶとこんなエピソードとたくさん出会えるんです。言葉を学ぶことで、人の考え方や文化が理解でき、その楽しみをいつも感じていられるんです。」
元々言葉好きだったというラム先生が、ご両親の勧めで入った大学で日本語と出会い、日本留学やインターンシップを経験し、天職と思う日本語教師の道を邁進されている、その勢いとパッションを感じるインタビューでした。今後の活躍を期待せずにはいられません。
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本稿はインタビュー内容を編集したものです。インタビューはすべて日本語で行いました。また、以下のサイトも参考にしました。
FPT Corporation https://fpt.com.vn/en
FPT Education Global https://daihoc.fpt.edu.vn/en/
発行/国際交流基金ベトナム日本文化交流センター
発行日/2021年2月20日
監修/安藤敏毅(同センター所長)
執筆・編集/片桐準二(同センター日本語上級専門家)
編集/森近美菜(同センター日本語指導助手)
長田あさみ(同センターアジアセンター調整員)
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