ベトナム社会科学アカデミー附属東北アジア研究所・日本研究センター
Vu Thi Phuong Hoa(ホア)さん
ホアさんは日本の社会問題への対策について調査し、ベトナムの政策立案の際の参考資料を作成している研究者である。現在、ホアさんが関心を抱いていることや、今後の研究者としての展望について語ってもらった。
経験は必ず道となる
「志望した学科の中から、大学入試の成績によって、人文社会科学大学の日本学科に入学することになりました」
日本への入り口は意外にも大学入試制度のアヤからだった。
大学卒業後は共産党機関紙の記者をしていた父親の勧めで新聞社に入社。編集業務に携わっていた。その後、結婚と出産。この頃から、子育てする女性の地位や働き方に強い関心を抱いた。そして、学生時代の日本や日本語に関する学習経験と新聞社での編集者としての経験とがここで結びついた。
新聞社の編集者から研究者へ。新聞社を退職し、ベトナム社会科学アカデミー附属東北アジア研究所・日本研究センターに入所した。
女性の地位向上のために
このセンターは、日本における基本的な課題や社会問題等について研究し、ベトナム政府が政策を立案する際に科学的な根拠を提供する等の任務がある。これまでにホアさんは、ジェンダー不平等問題、女性の社会的地位向上、女性の政治参画等における日本の政策について調査している。
「ベトナムでは重要で収入が高い仕事には男性が採用されることがほとんどで、管理職にも優先的に登用されます。共産党指導部(党委員会)でも女性は3割までしか入れないんです」
「日本の政策でいいものをベトナムにも取り入れて、女性にも生きやすい社会になればいいと思っています」と、男女の機会格差に対する熱い思いがあふれ出す。
児童虐待対策はライフワークに
そんなホアさんには、ライフワークにしたいテーマが見つかった。児童虐待対策である。
「ベトナムで8歳の女の子が継母に虐待され、実の父親にも暴力を振るわれて殺害されるという事件に衝撃を受けました」
子育てする母親でもあるホアさんの心は掻き立てられた。
「日本には児童相談所のような施設が多いですが、ベトナムにはあまりないんです。しかも、ほとんど機能していないというのが実情です。日本の博士課程に行って児童虐待対策について研究したいと思うようになりました」
日本で研究するために
目標ができた。しかし、大きな壁が立ちはだかった。研究者としての日本語力である。
「日本で現地調査をすることになったら、インタビューしたり、アンケート調査をしたりするときは、すべて日本語でしなければなりません。他の国の日本研究者と交流するときも日本語は必要不可欠ですから」
そこで、目標実現への一歩目として、2022年に国際交流基金関西国際センターに5か月間滞在し、専門日本語研修(文化・学術専門家)に参加した。
「この研修では、パワーポイントの作成、メールの書き方、発表の表現等、いろいろなことを学ぶことができました。日本語を使ってインタビューする経験もできました」
帰国した今も、日本語を忘れないようニュースなどの聞き取りは欠かさない。
「将来、日本で研究したことをベトナムに持ち帰って、ベトナムの社会に役立てたいです」と、目を輝かせた。
国際交流基金関西国際センターでは、参加者のニーズに合わせた様々な研修を行っており、そのうちの一つが、ホアさんの参加した「専門日本語研修(文化・学術専門家)」である。この研修は、研究者や大学院生を対象とし、専門業務や研究活動を遂行するのに必要な日本語能力向上を支援するために、年に2回(2か月コースと5か月コース)実施されている。詳細は以下のリンクを参照。
https://www.jpf.go.jp/j/kansai/training/(日本語)
https://www.jpf.go.jp/e/kansai/training/index.html (English)
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インタビューは日本語で行いました。本稿はインタビューの際のご本人の日本語を編集したものです。写真はいずれもご本人からの提供です。
発行/国際交流基金ベトナム日本文化交流センター
発行日/2023年8月21日
執筆/関山聡之(同センター日本語専門家)
編集/藤長かおる(同センター日本語上級専門家)
生駒美帆(同センター日本語指導助手)
藤村春菜(同センター日本語指導助手)
山村陽子(同センター所長補佐)
土谷リサ(同センター日本語事業担当スタッフ)
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