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ベトナムと日本の良さを生かした社会へ

NAL SolutionsDang Ba Khac Trieu(カク・チュウ)さんにインタビュー

 

Khac Trieu(カク・チュウ)さんは日本でITについて勉強して博士号を取得され、ダナン工科大学で教壇に立たれていましたが、最新の技術を実際に応用できるソフトウェア開発の仕事に転職されました。日本で留学生活を送るなかで、なぜ日本が成長できたのかという疑問に対する答えだけでなく、ベトナムの強みにも気づいたそうです。

 

 

日本のお客様の信頼を得る

今はどんなお仕事をしていますか?

「ソフトウェア開発です。例えば、マッチングシステムを作りたいという依頼の場合、マッチングにもいろいろあるけれども、お客様がどんなマッチングアプリケーションを作りたいかをヒアリングして、それをどのように作ればいいかなどを相談しながら、提案書と見積書を作ります。お客様はいろいろな企業からの提案書を見比べて選びます。もし弊社が選ばれたら、実際にプロジェクトを始動します。毎週、開発チームとお客様の会議に私も参加して、課題があるかどうかをヒアリングします。もし課題や不満なところがあれば、私が間に入って解決しますが、もし何も問題がなければ、話を聞くだけです(笑)」

お客さんというのはベトナムにある会社ですか?

「すべて日本の会社です。NAL Solutionsはマイナビの子会社で、マイナビのセールスチームがお客様との打ち合わせをセッティングして、私も同席してお客様と話します。マイナビの担当者は主にビジネス面を担当し、技術の話になると私が説明を担当したり、説得したりします。」

お仕事について難しい点は何ですか?

「日本のお客様を説得して信頼を得るのはなかなか難しいです。今まで日本のソフトウェア会社に依頼していたのが海外の会社に依頼するとなると、不安になります。たぶん、お金を払っているのに途中で逃げてしまったり、最後まで納品できなかったりするのではないかと、心配しているのかなと思います。でも、今はベトナムにもソフトウェア会社がたくさんあって、きちんと仕事をして納品しているんですけどね。」

実際に納品した後のお客さんの反応はどうですか?

「最初は、小さい仕事の受注から始まりましたが、やがて、同じお客様が続けて発注してくれるようになり、今では、40人規模の大きな仕事を発注してくださっています。実際に仕事を見て、魅力を感じてもらえたのだと思います。今、ベトナムではIT分野が人気があって、最新技術についても結構早く勉強できていますし、優秀な技術者が多いです。それで事業を拡大しています。」

 

 

日本の学生の意外な一面

どうして日本へ留学しようと思いましたか?

「日本以外にシンガポールや東ヨーロッパ、ロシアなど、いろいろな国の奨学金がありました。当時、日本の電子製品はすばらしく、アジアでは一番の国だと思っていました。どうして日本が発展できたのかを知りたかったので、日本の文部科学省の奨学金をもらって日本へ留学しました。最初の1年間は日本語を勉強して、次の3年間は高等専門学校で勉強しました。その後、もっと勉強したいと思い、編入試験を受けて、筑波大学に入りました。」

編入試験はとても大変そうですね。

「日本人と同じ試験なので結構大変でした。数学や物理の知識は大丈夫でしたが、専門用語の勉強が大変でした。日本の数学や物理はアメリカ系の記号や規則を使いますが、ベトナムはフランス系とロシア系のものを使います。だから、同じ概念だけれども、記号が少し違うことが多いです。高等専門学校の勉強でも同じ苦労がありましたが、先生が親切で、配慮してくれました。たまに試験で間違ってベトナムの記号を書いてしまうことがあっても、先生がどうしてこの記号にしたかを親切に聞いてくれて、それで満点を取れたこともありました。」

日本での勉強や研究生活について印象に残っていることはありますか?

「一番印象に残っているのは、日本人が真面目に研究することです。研究室に残って徹夜で研究していて、私はちょっとびっくりしました。同級生は、普通の授業ではあまり点数も良くないし、それほど頑張っていない様子でしたが、学年が上がって研究室に入るとみんなすごく真面目になって、徹夜して研究成果を出していました。それに、知識や成績の伸び率がすごく高いです。私はそれを追いかけるのが大変でした。」

ベトナムの学生とは違いますか?

「私は日本から戻ってからダナン工科大学で教えていましたが、学生はみんなきちんと勉強していました。ただ、あまり研究に力を入れていなくて、就職するために勉強する傾向があります。特にIT分野だと、3年生から企業でアルバイトをして、勉強や研究をあまりしていないという印象があります。目の前にある仕事のことだけではなく、もう少し先のことを考えないと後悔するものです。大学の4年間でいろいろなことに挑戦することができますよね。大学で教えていたときに、何回もそういう話をしました。」

 

 

どうして日本が成長できたのか

日本に行って、感じたことはありますか?

「どうして日本が成長できたか知りたいと言いましたが、日本にいるうちにわかるようになりました。みんなが仕事でも何でも、真面目に努力することが一番の要因かなと思います。その反面、幸せでない人も多いという印象もあります。例えば、表では笑ってくれているけれども、裏では寂しい思いをしているというように。たぶん子どもと親の距離が影響しているのではないかと思います。ベトナムは結構その距離が近くて、親戚ともよく会って話していますが、日本人は何でも一人でできるから、独立して生活している印象があります。それで、残業も多くて仕事も大変なのに、帰ると一人だから、結構寂しいかなと思います。でも、一人の生活の方が自由ですね。私は今、家族がいて、帰るといつも子どもがいるので、幸せですが、たまに面倒になることもあります(笑)」

確かに、ベトナムは家族のつながりが強いと感じますね。

「あと、日本人は誰も見ていないのに、どうして何でもきちんとするのか、気になりました。緊急時もそうです。2011年の東日本大震災の時、私は筑波大学にいました。みんな不安で早く逃げたいと考えているはずですが、大学の先生や職員が残って、留学生の面倒を見てくれました。例えば、泊まるところを手配したり、水や食べ物を準備したりしてくれました。つくば市は揺れが大きくて、水や電気が使えなくなりましたが、みんな並んで食べ物を買っていて、パニックになっていないことにびっくりしました。それが日本の一番強いところかなと考えています。」

勉強以外に、日本で生活して気づいたことはありますか?

「私は経済や社会に興味がありました。ベトナムと日本では国の仕組みが違いますよね。生活が豊かになると、人も変わると感じました。お金や食べ物が十分にあると、みんな話し合いながら仕事ができる、人と人の関係が良くなるのかなと思いました。やはり経済が発展しないと、なかなか人間関係が良くならない、国が良くならないと思います。ただ、日本人と同じぐらい仕事をすると大変だし、幸せにならないと思うので、日本とベトナムの真ん中が一番いいと思います。今の仕事でも、お客様が一番だと考えていますが、深夜や早朝にも対応するというわけではなくて、少し調整して、明日にしてもいいことは明日にします。それがベトナムの考え方です。ベトナムの若い人は結構柔軟にできていると思います。高い給料を得るために努力していて、すごくいいことだと感じています。」

 

みんなが幸せになれるように

これからの目標や夢はありますか?

「今の会社の従業員は240人ですが、5年間で1,000人の会社にしたいです。入社する前に社長と話して、そのような夢を持っていると聞いて、私もその成長の過程に関わりたいと思って入社しました。どうすれば成長できるかを一緒に考えながら、頑張っています。それが個人の夢ですが、大きな夢はベトナムを日本やアメリカほどの国に成長させることで、それに自分が貢献できると嬉しいなと思っています。生活水準が上がれば、私の子どもたちもみんなも幸せになれると思います。親戚や友達との関係が密接なところや、計画通りにいかなくても柔軟に対応できるところなど、ベトナムのいいところを生かしながら、日本のような社会を作りたいです。」

実はカク・チュウさんも計画を立てて行動するタイプで、計画通りにいかないとイライラすることがあるそうですが、最近は柔軟に行動するように気をつけているそうです。ベトナムと日本の両方の経験をもとに、ベトナムを良くしたいという熱心なお話が印象的でした。

 

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インタビューは日本語で行いました。本稿はインタビューの際のご本人の日本語を編集したものです。写真はいずれもご本人からの提供です。

発行/国際交流基金ベトナム日本文化交流センター
発行日/2022年8月19日
執筆・編集/久保亜樹(同センター日本語指導助手)
編集/藤長かおる(同センター日本語上級専門家)
   山村陽子(同センター所長補佐)
   土谷リサ(同センター日本語事業担当スタッフ)

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