日本ペイント・ベトナムのNguyen Thuy Ha(トゥイ・ハー)さんにインタビュー
今回は日系企業で社長のアシスタントや人事の仕事を経験されているトゥイ・ハーさんにインタビューをしました。仕事で学んだ日本人の考え方や日本語教育に関する将来の夢など、様々なお話を伺いました。
最初は日本語を選んだことを後悔
―日本語の勉強を始めたきっかけを教えてください。
「大学受験の前にどういう大学を選んだらいいか、知り合いやいとこに聞いて参考にしました。その時私は英語や外国語に興味を持っていましたが、日系企業に勤めていたいとこが英語より日本語の方がいい仕事のチャンスが多いと言いました。卒業してすぐ仕事ができたらいいなと思いました。もう一つの理由は、その時ベトナム人にとって日本や日本人はすごくいい印象で、日本の電化製品などがすごく丈夫で品質が良いと言われていました。日本人も優しいという印象でしたね。外国語を勉強したいと思っていた私にとってはやはり日本語を選んだ方がいいなと思って決めました。」
―実際に勉強してみてどうでしたか?
「初めて勉強した時はやはり難しかったです。諦めたかったです(笑)。ベトナム語や英語はアルファベットですね。日本語はアルファベットではないので、最初にひらがなの勉強を始めたとき、すごく難しかったです。日本語を選んだことをちょっと後悔しました。でも、1、2か月後には漢字や文法もどんどん頭に入ってきて、自分も挑戦したいという意思を持つようになりました。それに、一生懸命勉強して大学に合格したのに、もし諦めたらちょっと残念だし、恥ずかしいかなと思いました。だから今、初めて日本語を勉強する人の気持ちが分かります。」
―日本に留学されたんですよね。どうして留学しようと思ったんですか?
「3年生の時、半年ぐらい大阪に留学しました。大学生の時はほとんど大学の授業しか日本語を使いませんでした。2年ぐらい日本語を勉強しましたが、あまりコミュニケーションができなかったです。日本人と会ってもあまりしゃべれなかったので、自信がなかったんです。それで、大学で日本の交流プログラムに申し込んで合格しました。日本人の家にホームステイしていましたし、大学でも日本語で話していて、日本語で言えないと生活ができないので、頑張るしかなかったですね。1、2年生の時はいつも正しい日本語の文法を考えて話すので、反応スピードがすごく遅かったですが、日本では文法よりテンポよく話すことに力を入れました。短い間でしたが、日本で毎日日本人と話して自信が持てるようになって、自分の言いたいことも話せるようになりました。」
仕事に対する日本人のビジョン
―大学を卒業してどうされたんですか?
「大学を卒業したらすぐ日系企業で日本語が使える仕事がしたくて、最初はハノイ市内にある小さな日本人のオフィスでアドバイザーのアシスタントを始めました。でも、3か月ぐらいで日本ペイント・ベトナムに転職して、日本人の社長のアシスタントになりました。それからずっと同じ会社で働いています。今年でもう11年目ですね。」
―新しい仕事はどうでしたか?
「面白かったですね。いろいろな経験ができました。秘書の仕事もできるし、いろいろな部門と一緒に仕事ができて、会社のオペレーションが分かるようになりました。最初はいろいろなことが分からなかったから、自分で勉強しなきゃいけないですよね。でも、いつも社長がいろいろ教えてくれて、日本人の考え方とかマネジメントの知識とか、勉強になりました。例えば、仕事で問題が起こって解決する時、ベトナム人とビジョンが違いました。日本人は原因を分析して、同じ問題がまた起こらないように対策を考えます。日本人はいつもすごく細かいところまで考えますよね。だから、こういう細かい考え方がなんとなく分かるようになりました。」
―ビジョンの違いで困ったことはありましたか?
「よく社長が言いました。ベトナム人はいつも前だけを見ると。でも、日本人は前だけじゃなくて後ろも見て、右と左も見ます。だから、リスクのマネジメントについてやはり違う点もありますね。私は今、会社の人事を担当していますが、やはり悩んだのは人の評価ですね。ベトナム人は気持ちで評価する傾向があります。でも、日本人はやはり仕事は仕事ですね。これも日本人の観点とベトナム人の観点がちょっと違うんですね。アシスタントの仕事は架け橋のような仕事なので、ちょっと悩みました。他には、チームワークでも違いがありました。日本人はチームワークがすごくいいですよね。ベトナム人は、一人で仕事がよくできても、他の人と一緒に仕事をするのはまだ苦手ですね。」
―トゥイ・ハーさんはどんな役割をしているんですか?
「例えば、社長とベトナム人の部門長のミーティングに一緒に参加して、部門長の間で衝突が起こったら、「私が社長だったらこう思います」ということを部門長に伝えます。部門長はそれを参考にして、最後の解決方法の提案を提出します。コンサルタントみたいですね。最初はただ言葉を伝えるアシスタントでした。でも、長年日本人と仕事をして言葉以外に日本人の考え方が分かるようになって、コンサルタントの役割になりました。自分にとってすごく貴重な経験だと思います。ベトナムはまだ発展途上国でしょう。日本は先進国だから、ベトナム人は日本人から考え方とかやり方とかを勉強できたら、ベトナムにとっていいことでしょう。」
―会議は全部英語でしていて、部門長に説明する時にはベトナム語も使うということですね。
「私が日本語を使うのは日本人の社長とアドバイザーとだけですね。他のベトナム人は日本語が分からないから、日本人と話すときに英語を使います。英語だったらあまり困ったことはないですね。でも、例えば、私と社長だったら、同じ話でも英語を使ったらそんなに深くは分からないと感じます。もし社長が日本語を使ったら、言いたいことのニュアンスが深くまで分かります。」
英語はトゥイ・ハーさんにとっても社長にとっても外国語ですが、日本語は社長の母語なので、言葉の使い方で細かいニュアンスが分かるそうです。英語だけでもコミュニケーションができるので、問題がないように見えますが、日本語だからこそ分かることがあるんですね。
「会えたらすごく嬉しい」日本語
―将来の夢はありますか?
「ベトナムの子供たちに日本語を紹介したいですね。子供たちは今、学校で英語を勉強していますよね。この頃は第二外国語として日本語を選ぶ子供たちも多くなりました。それに、子供には日本のマンガやアニメが大人気ですよね。だから、私は大人より子供たちに対して、日本語が面白い外国語だと思うように、何かできることを考えています。日本語の先生になれるかなと思っています。すぐにフルタイムの先生はできないので、ボランティアとしてやりたいですね。」
―ベトナム日本文化交流センターの新規日本語教師育成講座を受けたことがあると聞きました。
「はい、3年前に受けました。私は社会人で他の仕事を持っていて、仕事にあまり関係ないですよね。でも、私は外国語の勉強が好きで、日系企業で日本人と一緒に仕事をしているので、自分の経験とかを他の人に教えたい気持ちがあって。それにはやはり教師になるしか方法はないかなと思いました。もちろん私はフルタイムの先生はできないですが、もし将来チャンスがあれば、パートタイムとかボランティアとして日本語教師をやってみたいと思って、それで講座に申し込みました。講座の先生がチャンスを与えてくれて、本当にありがたい気持ちでした。いろいろ日本語の教え方とかを先生から教わることも貴重な経験でしたが、その時日本語教師をしていた受講生と友達になって、その皆さんからも学びました。日本が大好きな人たちと友達になって、私ももっと日本語に対して興味を持ちました。」
―日本語教師をしている人たちからどんなことを学びましたか?
「皆さんすごく熱心ですね。すごく親しい友達になった受講生はいつもどうすれば自分の授業が良くなるかを考えて、工夫して準備していました。他の受講生の熱心な気持ちに影響されて、今の自分の仕事に対してもっと責任感を持とうと思うようになりました。」
―他に日本語を使ってしていることは?
「日本語を使うチャンスはこれだけですね。国際的な外国語になっている英語と違って、日本語が分かる人はまだ少ないです。日本語を使うチャンスはそんなに多くないけど、自分でチャンスを作るしかないですね。日本のドラマやインターネットのニュース番組とか…。例えば、愛している人に毎日会えなくて、会えたらすごく嬉しいでしょう。私にとって日本語はそういう感じですね。ずっと心の中にあります。日本語みたいな難しい外国語に挑戦した自分を誇りに思っています。」
インタビューを始めてすぐは、仕事では英語をよく使うので今も英語が出てくると笑っていたトゥイ・ハーさん。それでも、日本語だからこそ分かるニュアンスがあるといった日本語に対する真剣な思いを聞いて、外国語学習の意味を見つめ直すことができました。
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インタビューは日本語で行いました。本稿はインタビューの際のご本人の日本語を編集したものです。写真はいずれもご本人からの提供です。
発行/国際交流基金ベトナム日本文化交流センター
発行日/2022年5月17日
監修/安藤敏毅(同センター所長)
執筆・編集/久保亜樹(同センター日本語指導助手)
編集/土谷リサ(同センター日本語事業担当スタッフ)
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