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デジタルハリウッド大学卒のたこ焼き屋オーナー

 Jotako-Takoyaki House Nguyễn Khánh(カイン)さんにインタビュー

 

今回は日本の病院支援プロダクトを扱うDr.JoyにITコミュニケーターとして勤務しながら、ハノイでたこ焼き屋を経営されているカインさんにインタビューをしましたので、そのお話をご紹介します。

 

たこ焼き屋の中で(写真:筆者撮影)

 

宇多田ヒカルの「光」から 

-たこ焼き屋はどうして始められたんですか?

「ベトナムで売ってるたこ焼き、ジャンクフードの店で売ってるんですけど、あれはたこ焼きじゃないなぁと思っていたんです。日本料理のレストランに行けば、確かに日本と同じたこ焼きが食べられますが、値段が高い。たこ焼きって、そんなに高いもんじゃないよなぁと。このテナントがちょうど空いたので、喫茶店にするには狭すぎるし、テイクアウトでもやっていけるたこ焼き屋がいいと思って友人と二人で始めたんです。日本でよくたこ焼きを食べていたんで。」と流暢な日本語で話されるのを聞いて、日本には長くいらっしゃったのかと聞くと、「6年ぐらいです。日本で大学を卒業して、そのあと少し日本で働いていました。」

-どうして日本に行かれたんですか?

「きっかけは宇多田ヒカルです(笑)。『光』という歌を最初に聞いた時、何これ?って思って、それは英語バージョンだったんですけど、そのあと日本語バージョンもあるのに気が付いて、あー、日本語勉強しよって思ったんです。ちょうど高校を卒業したころのことでした。それで日本語学校に行き始めて、半年後には日本へ行って、また日本語学校に入って日本語を勉強しました。それから日本の大学に入ったんです。もともと高校卒業後は海外の大学に行きたいと思っていました。英語がまあまあできたんですけど、今の時代は誰でも英語ができるし、もう一つ外国語ができたほうがいいと思っていました。」

 

デジタルハリウッド大学

-大学では何を勉強されたんですか?

「この大学を知らない人が多いんですけど、私はデジタルハリウッド大学で、映像とマーケッティングを4年間勉強しました。ビデオを撮るのが好きなので、CMやミュージックビデオ、映画などの監督をしてカメラで映像も撮る、そんなクリエーターですかね。卒業作品では14分のショートムービーを作りました。お恥ずかしいものですが(笑)、偶然ある女性が秘密を手に入れて、それをスパイが取り戻そうとする映画です。トムとジェリーみたいなコメディータッチのストーリーです。女優とスパイと3,4人のサブキャラクターはタレントさんにお願いして、私は脚本、監督、カメラマン。葛飾公園で撮りました。」

デジタルハリウッド大学はそのホームページによると、デジタルハリウッド株式会社が設立した文部科学省認可の大学で2004年に専門職大学院、2005年に4年制大学を東京で開校しました。このうち4年制大学はデジタルコミュニケーション学部デジタルコンテンツ学科の1学部1学科のみで、デジタルコンテンツ(3DCG、ゲーム・プログラミング、映像、グラフィック、アニメ、Webデザイン、メディアアート等)と企画・コミュニケーション(ビジネスプラン、マーケティング、広報PR等)の複数の専門領域から学生は学びたい科目を選択して学ぶことができるとのことです。

 

厳しいけど優しい店長との出会い

―日本語はどうやって上手になったんですか?

「日本に行って、学生寮では中国人がルームメイトだったので、日本語でしかコミュニケーションが取れなかったんです。それからバイトですね。居酒屋で働いていたんですけど、バイト仲間や店長と話すことで、一気に日本語が上手になりました。そこの店長にはホントすごくお世話になりました。実は私は仕事というものはしたことがなかったので、初めの頃しばらくは、仕事に集中せず、責任感もなく、メニューさえ覚えてないような、そんなふうに仕事をしてたんですけど、ある日、私がオーダーを間違えた時、『お前何してんだよ』『お金もらってるんだろ、ただで働いるんじゃないよ』って店長が怒鳴って茶碗を投げたんですよ。私にじゃなくてシンクにですけど。で、すごくびっくりして、それは私が目覚めた瞬間でした。そのあと、お金の重さを感じて、責任を持って仕事ができるようになりました。ちょっとだけ大人になりましたよ(笑)。店長は厳しいけど優しい人で、そのあとは店長ともっと仲良くなりました。日本でのバイトでは、人として成長できたし、自分が全力で生きているという気持ちを持った青春の時でしたね。」

 

ITコミュニケーター

―大学卒業後はどうされたんですか?

半年ぐらい東京の映像制作の会社で働きました。ドローンを使って撮影をして、施設のPR動画を作るような仕事で、北海道のホテルやあきる野市にある東京サマーランドなどいろいろなところへ行って撮影しました。現場へ行くのが楽しい仕事でした。その後はベトナムに帰って、映像系で仕事をしようと思い、1年間ぐらいテレビ局での仕事やコンサートを撮るといった仕事をしました。でも、映像制作についての考え方が違って、私が作りたい作品ではないんですね。それで映像の仕事は諦めて日本語の仕事を探し、コンピューターソフトの会社に入りました。ベトナムのエンジニアが、日本からの注文でソフトウェアを作ったり、テストしたりするのですが、私はその間を取り持つ、ITコミュニケーターという仕事です。メールでのやりとり、テレビ会議、日本から来たお客さんの対応、通訳翻訳などですね。昨年の4月からはDr.Joyという日本の病院支援プロダクトを扱っている会社に転職して同じ仕事をしています。」

 

SFを通して見る現実世界

-カインさんが作りたい作品というのは?

「コマーシャルとかミュージックビデオとかでもクリエイティブなものを作りたいです。そして、意味のある映画。今のベトナムの映画、なんか変です。全部が映画にしか起こらないことです。もっと現実的な、映画を見た人が映画と同じ世界にいると感じるようなものを作りたいです。この2年ぐらいはサイバーパンクを考えています。」サイバーパンクについて質問すると、「サイボーグが出てくるSFみたいなものです。日本はこのジャンルの世界への影響が大きいんですよ。Akiraとかアリータ、がんむ。」えっ、がんむ?と聞き返してしまいます。『がんむ』は漢字で銃の夢と書くそうです。「銃夢は1995年、昔の作品です。」

―先ほどの見る人が映画と同じ世界にいるという現実的な映画とSFと全く違う2つの作品イメージがあるということですか?

「いや、その2つは同じです。実は現実の世界でもフィクションのようなことが起こっていますよ。最近のSF映画は現実と変わらない。これはわたしの発想ではありませんよ。サイバーパンクというのは、過剰に発展した近未来からの着想です。その発展した未来では、人類は大企業に支配、管理、監視されるのですが、そこでいろいろな社会問題が出てくるというフィクションです。その大企業に支配、管理、監視されるという部分はもうすでに起こっていますよね。最近のニュースを見ればその怖い部分だけはリアルで面白いと思います。」その大企業というのは、例えば今のGAFA*とかですか、と聞いてみると「そうですね。でも、これはまだ趣味レベルで考えていることです。夢は無料ですから、いろいろな夢を見ています。」とのことです。なるほどデジタルハリウッド大学で学ばれてきただけあって、SFの世界を通して現実社会を見ていらっしゃるのだと感心しました。

*GAFA:アメリカの主要IT企業であるGoogle、Amazon、Facebook、Appleの4社の総称。

 

 

お店の愛犬のジョジョと(写真:カインさん提供)

 

日本語が可能にしたこと

―今はその作品作りの夢のためにお金を貯めているのですね?

「そうですね。今、このたこ焼き屋はスタッフが6人いて、そのうち4人は日本語ができますよ。もう少し安定してきたら2号店を出したいとも考えています。日本でバイトをしていた時の頑張ろうという気持ちが、たこ焼き屋をやりたい気持ちにつながっている気がします。日本に行ったおかげだと思います。日本語ができると、いろいろなチャンスがあるし、この店も、もし日本語を知らなかったら、他のジャンクフードの店みたいにフライヤーでたこ焼きを揚げているかもしれないですよ。」

―宇多田ヒカルは今も聞いていますか?

「シャッフルした音楽の中に入れていて、偶然、自分の気持ちに合う歌が流れてきたりするので、今でも聞いて泣いてしまいますね。」

宇多田ヒカルの歌をきっかけに日本語を学び、日本の大学と居酒屋で映像とマーケティングと大人社会を学び、SFと現実世界を行き来するような作品作りを夢見ているカインさんの今後の活躍が楽しみです。美味しいたこ焼きも引き続きお願いします。

 

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本稿はインタビュー内容を編集したものです。インタビューはすべて日本語で行いました。店名のJotakoは、ベトナムでも人気のアニメ「ジョジョの奇妙な冒険」の主人公、空条承太郎(Jotaro Kujo)をヒントに付けたとのことです。以下のサイトも参考にしました。

デジタルハリウッド大学 https://www.dhw.ac.jp/

発行/国際交流基金ベトナム日本文化交流センター
発行日/2021年3月20日
監修/安藤敏毅(同センター所長)
執筆・編集/片桐準二(同センター日本語上級専門家)
編集/森近美菜(同センター日本語指導助手)
   長田あさみ(同センターアジアセンター調整員)

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